東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1031号 判決
控訴代理人は原判決を取り消す、被控訴人と控訴人間の東京地方裁判所昭和二十四年(ヨ)第一二三九号仮処分命令申請事件につき同裁判所が昭和二十四年五月十四日にした仮処分決定はこれを取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、<立証省略>はすべて原判決の事実のらんに記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。
三、理 由
被控訴人を債権者、控訴人を債務者とする東京地方裁判所昭和二十四年(ヨ)第一二三九号仮処分申請事件について同裁判所が昭和二十四年五月十四日「債務者の別紙目録及び図面<省略>表示の土地に対する占有を解き債権者の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる、但し執行吏は現在右地上に生育中の穀物並に野菜に限り、その栽培収穫のため債務者に右土地の使用を許さねばならない、この場合債務者は右地上に建築をなし、その占有を移転し、占有名義を変更し右土地を前記栽培収穫以外の用に供してはならない、執行吏は右命令の趣旨を公示するため適当の方法を取らなければならない」との仮処分決定をしたこと、次いで被控訴人は控訴人を相手どつて同年六月十五日東京地方裁判所に対し賃借権確認等の訴を提起し、右事件は同庁同年(ワ)第二五〇六号事件として係属したところ、昭和二十七年二月二十六日被控訴人が右訴を取下げたことはすべて当事者間に争いがない。
控訴人は右訴の取下は被控訴人において本件仮処分により保全されるべき権利を本案訴訟によつて主張することを断念したことを示すものであつて、本件仮処分はこれによつて事情が変更したものとして取り消されるべきものであると主張する。右訴が本件仮処分の本案と見るべきことは明らかであるが、成立に争いのない乙第一号証の一、二、同第二、第三号証の各記載によれば、被控訴人の妻平間イキは、被控訴人が前記訴訟において主張する権利は右イキが被控訴人の財産管理権にもとずき、これを主張すべきものとの見解の下に、その名において自ら控訴人を相手どつて昭和二十六年十一月十五日東京地方裁判所に対し賃借権確認の訴を提起し、右は同庁昭和二十六年(ワ)第七一五八号借地権確認請求事件として係属するにいたつたので、被控訴人はいちおう前記自己の訴を取下げたのであるが、果して右の権利関係は右イキを当事者とすべきか、被控訴人を当事者とすべきかは、なお被控訴人において疑いを存し、右イキの訴訟の結果その他必要に応じてはさらに訴を提起する用意があることを疏明し得るところである。いうまでもなく第一審の終局判決のある前に訴を取下げたものは同一の訴を再び提起することを禁ぜられるものではない。かような事情を考慮すれば、被控訴人の前記訴の取下はこれをもつて直ちに本件仮処分の本案の権利を訴訟において主張することを放棄したものと解することはできない。仮処分債務者たる控訴人としては、本案の係属しないまま仮処分によつて長く拘束されることの苦痛であることは察すべきであるが、これを免れるにはまたおのずからその方法があるのである。しからば右訴の取下はまだ本件仮処分を取り消すべき事情の変更を生じたものとは解し難く、控訴人の右取消の申立は理由がない。これと同趣旨の原判決は相当であるから、本件控訴は理由のないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)